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コラム・クリス-ウェブ 佳子

2019.12.25

Vol.01 来年、新しいマンションが家の前に建つことに

1979年、私が生まれた年に建てられた低層マンション。そこに住み始めて5度目のお正月を迎えます。重厚かつレトロな外観で、3つのベッドルーム、2つのバスルーム、小さいながらも便利な納戸が1つあります。そして2層のガスオーブンと5口のガスコンロ、大容量の食器洗浄器を備えた縦長のキッチンは私の一番のお気に入り場所。入居前にキッチンのリノベーションを提案されたのですが、とんでもないとお断りしました。それはマンション内に残る唯一のオリジナルキッチンで、古くは『アーノルド坊やは人気者』、ドンピシャ世代で挙げるなら『ビバリーヒルズ高校白書』や『フレンズ』のようなアメリカンシットコムに登場する佇まいがあり、その雰囲気に私は一目惚れしたのでした。

 

 

 

キッチンの窓を365日24時間照らすのはLEDの電飾

キッチンの窓を365日24時間照らすのはLEDの電飾

友だちと一緒に学校から戻った長女がすぐに陣取るのは冷蔵庫前

友だちと一緒に学校から戻った長女がすぐに陣取るのは冷蔵庫前

最初に憧れた家は祖母の実家でした。広い玄関土間の左手には大きな2つのカマドのある土間の台所があって、玄関から勝手口へと続く通り土間は格好の遊び場でした。古くて長い平屋で、全ての部屋につながる縁側があり、目の前にはどこまでも広がる田園風景。田んぼでゲンゴロウを捕まえ、トンボを追いかけ、泥だらけのまま家の中に駆けこめる気ままさが大好きでした。島根県の片田舎にある長屋は、今も変わらず私の理想の家です。

 

 

毎週末の深夜、リビングルームはホームシアターに

毎週末の深夜、リビングルームはホームシアターに

場所は変わり、ここは東京ど真ん中。大きな窓のあるリビングルームとダイニングルームには冬でもたっぷりの陽光が差し込み、暖房を入れないまま春を迎えることもしばしばです。私の趣味を詰め込んだその空間は、家族にとっても、また我が家へ遊びに来る友人たちにとっても憩いの場であり、私たちは多くの時間をそこでともに過ごします。そんな憩いの部屋から見下ろせる場所に一軒の家がありました。過去形で書かなければならないのが悲しいのですが…。とにかく、我が家を訪れる誰しもが口をそろえて褒め讃えたその家は、都会のど真ん中にしては広い400平米ほどの敷地に建つ古い平屋で、大きな庭にはそれはそれは見事な金木犀の木がありました。9月から10月末にかけては、窓を開けるたびに優しい香りが舞い込んできて、その金木犀の香りは私にとって秋の訪れを告げてくれる毎年の楽しみだったのです。

 

そんな素敵な、絵本の中に出てくるような一軒家が、遂にこの冬、取り壊されてしまいました。12月初旬のことでした。庭の木の伐採が始まり、立派な金木犀の木も大輪の花を咲かせていた椿の木も、近所に住むハクビシンの家族が渡り道にしていたユズリハの木も切り倒されてしまいました。そして、あれよあれよという間に家は取り壊され、私の家から見えるのは多くの木々を育てた豊かな土壌の更地のみ。来年早々から建設工事が始まり、その土地には低層マンションが建設されます。

 

 

 

全ての部屋に花を飾ります

全ての部屋に花を飾ります

大好きだったその一軒家に住んでいたのは老夫婦の二人だけ、というのは知っていましたが、あまりにも高齢だったからなのか、この10年間ほど近所との交流は全くなかったそうです。平日は親族なのかお手伝いさんなのか、女性がひとり、家の周辺を掃き掃除し始めるので、それも決まって16時に、「シュッ、シュッ、シュッ」と軽快な音が聞こえてくると「あぁ、もうそんな時間か」と1日の終わりを感じたものです。その音も聞こえなくなり、四季の香りも漂ってこなくなりましたが、今は更地の場所にどんな低層マンションが建つのかが楽しみです。

 

 

廊下の一角には独特な感性の次女がいけた花

廊下の一角には独特な感性の次女がいけた花

六本木ヒルズ近隣の高層マンションや沿岸部の高層マンションでもない限り、都会の真ん中に低層マンションが1棟や2棟建設されたところで、人の流れや近隣の雰囲気はさほど変わりませんが、それでもやはり期待に胸が膨らみます。外観のデザインはもちろん、どんな木々が植栽されるのかなど。建設会社を運営していた祖父や建築士の父の元で育ったからでしょうか。どのような建設現場も飽きることなく眺めていられます。来年、リビングルームとダイニングルームから見える建設風景は私にとって最高のエンターテイメントになりそうです。

 

クリス-ウェブ 佳子 <モデル/コラムニスト>

1979年10月、島根生まれ、大阪育ち。4年半にわたるニューヨーク生活や国際結婚により、
インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PRなど幅広い職業経験で培われた独自のセンスが話題となり、
2011年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物言いと広い見識で、トークショーやイベント、空間、
商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017年にはエッセイ集「考える女」(光文社刊)、
2018年にはトラベル本「TRIP with KIDS ―こありっぷ―」(講談社刊)を発行。interFM897にてラジオDJとしても活動中。

Instagram: @tokyodame |

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