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「POSTERS × FURNITURES」Designers Interview②with髙田 唯(全4回)

「POSTERS × FURNITURES」Designers Interview②with髙田 唯(全4回)

東京建物が主催するアートギャラリー BAG-Brillia Art Gallery-において、ポスターと家具の共演「POSTERS × FURNITURES」の企画展を2024年2-3月に開催しました。bloomoi(ブルーモワ)の共創パートナーであるKIGI(キギ)をディレクターに迎えた本企画展は、18名のデザイナーが手掛けたポスターにそれぞれ家具を組み合わせた展示です。家に飾れるポスターは額装やサイズを選んで購入することが可能で、訪れる人に自分らしい暮らしを考えるきっかけを作っています。企画展のBehind storyとして5名のデザイナーにポスターの制作背景や暮らしに対するお話を伺いました。今回は、グラフィックデザイナー髙田唯さんのインタビューをお届けします。

これまでのインタビュー
vol.1 葛西 薫
https://bloomoi.brillia.com/reports/entry_0025/

違いを知るのが好き、台湾と日本の良さをキャラクターで表現

−ポスターを制作した背景について教えてください。

髙田さん:

この作品は、台湾と日本の交流を図るイベントで制作依頼のあったポスターです。日本と台湾の違いや、それぞれの良いところを考えて、台湾と日本が対になっているものを複数制作しました。企画展の展示はそのうちの2つです。

2018年に台湾・台中にあるギャラリーで展示会をするご縁をもらいました。これまで何度か台湾へ行き、台湾の空気を浴びてご飯を食べて味わって、現地の人たちと接してきた中で、なんとなく台湾人の気質がわかってきました。僕は大学の教員をやっており立場的にも様々な方と関わります。その経験の中で、自身に蓄積される日本らしさ、台湾らしさみたいなものがありました。台湾の皆さんは、言いたいことをちゃんと伝えます。政治にもすごく積極的な印象です。僕が現地で食事へ出かけた時、ビールの栓抜きを探していると、そこへ食事に来ていた若い家族連れの方が僕に持ってきてくれました。しかも日本語も話せて、「ごゆっくりどうぞ」と伝えてくれて。台湾の方は、すごく気が利いて、自然に困っている人を助ける印象でした。その温かさに学ぶことが多かったです。

このポスターでは、台湾と日本を対にしてキャラクターで表現しています(左が台湾、右が日本を表しています)。ちょうど僕の中でキャラクターにチャレンジしたかった背景もあります。台湾は、それぞれが個性的で色が違って、そしてきちんと主張もできる性質から、いろんなカタチと動きを与えました。もうひとつは日本ですが、穏やかで控えめで、同じ形を好む。でも、心の内に何かを秘めていて、表ではなかなか伝えない様子を表現しています。どちらが良い・悪いではなく、台湾と日本の違いや良さを僕が経験した印象でキャラクター化しました。僕自身、「違いを感じること」が好きで、海外の文化や食べ物、四季、植物、動物、景色…そういうものを感じて知ることがすごく好きです。そこから「なんで、そうなっているだろう?」と1人でモヤモヤと考える時間が好きで、子どもの頃から内に篭って考えることが多いと思います。

本当に欲しいものを手に入れた喜びの体験を味わってほしい

―家に飾れるポスターが購入できるPostersの良さは?

髙田さん:

良い意味で敷居を低くした新しいアイデアです。僕は家に花を飾るのが好きで、花が枯れていく様も含めて、花があることで暮らしの景色が変わります。そんな身近に気分転換をする方法としてポスターがあります、という提案がPostersだと解釈しています。Postersは、気に入った作品をいろんなサイズで注文できる仕組みです。自分の都合に合わせてサイズを決められるのは画期的だと思いましたね。

20代前半の頃に、僕が憧れていたアーティストさんの絵が売っていました。相当頑張れば買える金額だったので、悩んで何度も通って。最終的に購入を決めた時の高揚感(本当に欲しいものを手に入れてしまった、というドキドキした体験)や、家に絵が届いたときの喜びや嬉しさの体験は忘れられません。好みはあると思いますが、ご自身の心が動くものを感じることや、選ぶ中で好きではないものを知る体験、家に飾ってみる体験も含めてPostersを楽しんでもらえるといいですね。

スツールや家具など、良い形のモノが目に入ってくると嬉しいので、この人生の中でそばに置いておきたいものかどうか、という視点でモノを見ていますね。昔はもう少しモノを抱えていたのですが、やはり心も移り変わっていくので控えた時期があって。そこから自分の「買う、買わない」という線を知ることが面白くなりました。僕が変わるとモノも変わって見えるのが面白いし、学生の頃に頑張って買った絵も、また年を重ねてみると違って見える。さらに経年の良さが出てきて、モノと一緒に過ごしていく中での自分の変化を知ることが魅力なのかもしれない。毎日新しくなる自分とモノとの関係で、全く見向きもしない日もあれば、改めてじっくり見る日もあっていい。だからポスターもどんどん自分の気分に合わせて差し替えればいいと思います。

デザインやアートは精神的に豊かになるためのものだと思っているので、「いろんな考え方があっていい、こんなに自由なんだ」と自らが気付けると、世の中そのものが面白く見えてくるものだと思っていて。それが本当の豊かさですね。

いろんなものを受け取れるように精神的な余白を大切にしている

―暮らしで大切にしていることはありますか。

髙田さん:

いつも大切にしているのは、受け取れる精神状態であることです。僕は、いろんなものをキャッチしたいので、あんまり緊張しないで精神的な余裕や余白を持っていたい。例えば季節のものを食べる、月を眺める、今ここで起きている現象を楽しむといったことはすごく意識しています。本を読むことや美しい言葉に出会うこともそうですし、健康にも気を付けています。

不安を感じることがあれば、そこは自分で無視しないようにしています。僕は、一体何を不安と感じているのだろう、と問いかけています。別に答えが出るわけではないし、すぐに何か行動したら解決するわけでもありませんが、こういうことがあると僕は不安になるということを知ることはできる。そのように自分を知ることが重要だとは思っています。自分の感情に抗わずに「そうか、今は切なくなりたいんだね」と付き合ってあげています。切なくなることも、イライラすることも、嬉しいことも全て自分で受け止める。なかなか思い通りの自分にならないもどかしさを諦めたのだと思います。誰かに助けてと言えるようになってから楽になりましたね。周りに助けてくれる人がいればどうにかなるという経験も味わってきました。助けてほしいと言える環境が必要です。なかなか気楽になれない縛りがあって、いつの間にか周りを固められてしまっている状況は困ったものです。特に大学で教育に関わっていると、精神的に参っている学生が年々増えている印象があるので、僕みたいな人でも何とか生きていくことができると見せていきたいですね。

僕も含めて、今はどうしても思考がコンパクトになりがちです。僕は海外で展示をやっていますが、若い世代の皆さんが言語を飛び越え関係性が生まれるところに身を置いて、心が震えるほどの楽しみや喜びを感じてほしいと思っています。もしかしたらバーチャル空間やゲームの世界で既に行われているかもしれません。若い世代なりの方法で、異なる環境に身を置いてみてほしい。その時に危機感や不安を感じることは、すべて自分を育てることにつながります。怖いけれども、仲間を増やして一緒にやればいいし、日本の良さや新しい面に気付く可能性もあります。例えば、本当にお味噌汁は美味しい!とか、日本を離れることで気付くことはたくさんある。最初の一歩が本当に億劫だし怖いけれど、踏み出せるといい。そのきっかけを僕たち大人世代が与えていかないといけないと思っています。

―もしbloomoiとコラボレーションをするとしたら?

そうですね、まずは水平垂直を疑います。水平と垂直は便利な構造ですが、そこを少し変えてみたいですね。不自然でも都合がいいし「たまには裸足で歩いてみませんか」という感覚で住まいと向き合ってみたいです。例えば、ひとつのアクセントとして、違った感覚の部屋をひとつだけ作る、ドアを丸くする。そんなことで住まいがユニークになっていき、そこで暮らす子どもたちや若い人たちが、その印象をすごく覚えているはず。花を飾ることもですが、住まいの一部を少し変えるだけでもアートになると思います。

髙田 唯
YUI TAKADA

グラフィックデザイナー。1980年東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。株式会社Allright取締役。個人アートワークでの展示も多数開催。近年は海外での仕事・展示も増えている。2011年JAGDA新人賞、2019年東京ADC賞、2020年TDC賞受賞。展示のポスター作品名:台湾と日本

Posters
https://posters-ofs.jp/